武士の性分
静寂が支配する砂埃が舞う原っぱで刀を構えた侍が合間見えていた。それを月明かりが照らす。
一人の侍の名は前田弥之助成正といい北辰一刀流の使い手で、もう一人の侍の名は早川実衛門兼近といい神道無念流の使い手だった。
二人はまさに果たし合いの最中なのである。
緊迫した空気の中、二人は刀を構えたまま動けずにいた。と、いうのも、手練れ同士の戦いの勝敗は一瞬で決まる。ちょっとしたミスが命取りになる。
そんな中二人は互いを見据えじりじりと間合いを詰め、刀を振るタイミングを見計らっていた。
時折、月光に照らされた刀がキラリと煌めく。
一瞬、一際強く風が吹き、それと同時に枯れ葉がふわりと舞うと、ここぞとばかりに前田弥之助が先に動き、一気に距離を詰めると、刀を振り落とす。それを早川実衛門が刀で受け止め、「カキーーンッ」と、甲高い音と供に火花が散る。
前田弥之助が勝負を決めるべく拳に力を入れるが、早川実衛門も負けるものかと押し返し、拮抗していた。
二人のこめかみから汗が滴り落ち、力を込めた刀を握る拳がブルブルと震える。
その拮抗を崩したのは早川実衛門だった。素早く身を後ろに飛ばし、前田弥之助の斬撃をかわす。が、完全にはかわしきれず、切っ先が左頬をかすめ血が滴り落ちる。
早川実衛門はニヤリと挑発的な笑みをこぼすと同時に、素早く一気に距離を詰め、前田弥之助に鋭い斬撃振り落とした。それを前田弥之助は刀で受け止め、また鍔迫り合いを始める。
今度は前田弥之助が素早く身を後ろに飛ばせ、早川実衛門の斬撃をかわすわけだが、やはり切っ先が左頬をかすめ血が滴り落ちていた。
力量はほぼ互角。勝敗を決めるのは運と言った所だろうか。
そんな中二人は相対しながらニヤリと満足げに笑みをこぼすと、語り合うように斬撃の応酬を始める。
前田弥之助が刀を振り落とすように見せかけて横に薙ぎ払うが、それを早川実衛門は読んでいたようで、刀で受けると横に飛ぶと同時に強烈な突きを前田弥之助に見舞う。が、それを読んでいた前田弥之助は寸ででかわす。
「楽しいな」
「ああ、楽しい」
「存分に語り合おうぞ」
「おう、かたり合おう」
その言葉を機に激しい切り合いを始めたのだが、流石に使い手同士の戦い。勝負はつかずに時間だけが過ぎていった。
そんな事を続けてると、いつの間にか真上にあった月も沈み、夜が空けかけていた。
「これでは話にならんな」
「ああ、話にならん」
互いの人など到底切れなくなった刀を見て言葉を交わす。
「勝負はお預けだ」
「次こそは勝たせて貰うぞ」
満足気にそう言葉を交わすと踵を返し帰路へとついていった。
地面に真の侍達の語らいの爪痕を残して……。